登戸ブルース(7) ―平日の献血センターと無職男

 
 この10月から、赤い羽根募金が始まっています。皆さんは募金をされたでしょうか。
 僕なんか、募金なんて「いいひと製造機」だと思うんですよね。女連れだと奮発して募金するけど、独りのときは見ないふりをするとか。
 そもそも、募金したお金は、100%人のために役立てているのか、募金を呼びかける人のジュース代に消えたりしないのか、あれこれ考えたりしませんか?
 その点、献血は余計なことを考えずにすみます。お金はいろんなものと交換できるけど、血はそうではありませんし。
 ということで、所要で街へ出たついでに、献血をしてきました。A型の血は不足しているみたいだし、僕は無職で予定がありません。社会的にはダメダメ男ですが、献血センターに行けば王様扱いをされるはずだ。そんな淡い期待を抱きながら。
 しかし、平日の昼間に献血センターにいる人なんて、ほとんど女性なんですよね。なかには、血を抜いてだいじょうぶなのか、というぐらいスリムな方がいらっしゃいます。僕一人だけ浮いている感じです。
 ひとまず、受付で献血カードを渡します。ない場合は作ることになります。僕は一年ぐらい前に、なぜか大阪で献血をしたので、すでにカードを持っていました。
 それでも、今回の献血のために、様々なアンケートに答えなければなりません。
「同性との性行為はありますか?」
「複数の異性との性行為はありますか?」
 そんな感じのアンケートです。答えるだけで気が滅入ってきます。ああ、たしかに俺はモテないよ、風俗にも行ってないよ、だから献血に来てるんだよ、と叫びたくなるぐらいです。
 ふと、耳をすますと、受付から、こんな会話が聞こえています。
「ええ、どの人の血でも良いってわけじゃありませんからね」
 どうやら、その女性は断られたみたいです。
 そう、街路では「血が足りない!」「お願いします!」と絶叫しているんですが、献血センターの中に入れば、うって変わって良い血の持ち主か厳しく選別されちゃうわけです。
 それが血の成分にまつわるだけならばいいんですが、なんだか「無職野郎の血なんて、お望みじゃないんだよ。ケッ」という冷たい視線を感じるんです。何しろ、スタッフのほとんどは女性ばかりですからね。こんなのは、無職男の被害妄想だとは思いますが。
 さて、アンケートに答えると、血圧をはかります。ここらへんはシステマチックです。僕の前の女性は血圧を測り直していました。おいおい、そこまで無理して献血することないだろうに、と思います。
 今回の献血は400ml採血ということで、0.4kgの減量につながるわけですが、体への負担は大きいらしく男性は三か月に一度、女性は四か月に一度しか許されていません。
 そして、その水分補給のために、フリードリンクとなっています。ジュース飲み放題なんです。といっても、ガバガバ飲んでいたら「おまえ、フリードリンクのために、献血する気かよ。やっぱ無職はクズだな」と冷たい目で見られるでしょうから、自制しますけど。
 やがて、名前を呼ばれて、女医さんの簡単な診察を受けて、まず、少量を採血します。注射針がチクッと刺す瞬間は、子どものときから嫌いです。はっきりいって、かなり痛い。でも、泣きません。大人ですから。
 そして、また待たされます。その血で、血液型が間違っていないか、ヤバイ病気にかかっていないのか調べるわけです。僕はA型ですし、ヤバイ病気にかかるほど性行為をやってるわけではないので、無問題です。
 ただ、タバコを吸っているので、白血球がうんぬん、と言われました。「まあ、いいんですけどね」とか、そんな失礼なことを口にされます。募金は笑顔で終わりますが、献血はそう単純にはいかないのです。
 こうして、いよいよ400ml採血となります。ベッドに寝かされて、針を刺されて、グイングイン動く採血機の中に、僕の深紅の血が入っていくわけです。
 最初の針の痛さのほかは、あまり苦痛ではありません。ただし、僕が寝かされたベッドにはTVがついていません。他のところは、看護士さんと女性採血者が世間話をしていたりしますが、僕は針を通されたら、放ったらかしでした。扱いの悪さにだんだん泣けてきます。まあ、被害妄想でしょうが。
 今の僕は169cm68kgと太り気味でありますので、血はどんどん集まります。隣の女性なんか、他人に血を差し出す必要あるのか、と思っちゃうぐらい痩せているのに比べると、はるかにスピードが違った気がしました。
 あ、もう終わりですね。そんな軽口を叩かれて、いつの間にか、400ml採血は終了しました。注射跡にイソジンぬって、ガーゼをつけて、それをまくバンドをしばられて、完了です。ここらへんは、ライン作業のように軽やかです。
 献血を終えたら、しばらくは食事や激しい運動は禁止だといわれます。ただ、僕は目まいを感じるほど柔な体ではありません。正直いって、400mlでは、まだ足りない気がします。
 それでも、水分補給のために、ジュースを飲みます。フリードリンクですので、二杯飲みました。
 このようにして、僕の善意の献血は終了しました。こんな記事を書くと、献血するのをためらう人が増えそうですけど、募金するよりは人のために役立っている気がします。合計1時間以上かかりますから、忙しい人は無理でしょうけど。
 でも、男は平日の昼間に行くべきじゃないですよね。次は休日の秋葉原あたりでやろうと思います。
 最後に、後で体重はかってみたら、ビックリするぐらい変わってませんでした。あんまりダイエットになりませんね、献血って。