流れ星を見ると哀しい気持ちになる、と彼女は言った。

 
 
流れ星を見ると哀しい気持ちになる、と彼女は言った。
 
彼女の国では、流れ星とは降ってくるものではなく、昇っていくものらしい。
 
肉体を失った魂が空に昇り、そして天のもとへと帰る。その一瞬のきらめきが、流れ星なのだと。
 
僕たちのように、流れ星に三回願いごとを唱えるとそれがかなう、といったロマンチックな幻想とは異なる文化で育ったのだ。
 
だから、彼女は幼い日、いつもより流れ星が降り注ぐと、遠いどこかで争いが起こっていると思って、そのために祈った。顔も知らない名も無き兵士たちのために。
 
この国に来てから、流れ星を見ることがなくなったことを、彼女は平和の証かもしれないね、と笑う。
 
もちろん、今の彼女はそんなことを信じるほど幼くない。
 
僕は説明する。あれは地球の引力にひかれた隕石なんだ。ほとんどは、大気圏突入のときに燃え尽きる。そのきらめきが流れ星なんだ、と。
 
そう口にしたものの、僕自身、それを頭で理解しているだけだと思う。本当は、万有引力とか大気圏とか、信じていないのかもしれない。
 
彼女は言う。せっかく宇宙を旅してきたのに、地球に来れなかったなんて、かわいそうだね。
 
僕は言う。もし、地球に隕石が頻繁に降ってきたら、大惨事だ。恐竜が絶滅したのも、大きな隕石が理由だと言われているし。
 
じゃあ、なんで、地球は隕石を呼ぶの?
 
呼んでるんじゃなくて。それは引力っていうもので。
 
タイキケンとかいうバリアをしているくせに。
 
だって、そうじゃないと、地球は月のように、クレーターだらけになってしまう。
 
なんだか、あなたみたいだね。
 
え?
 
彼女はいたずらっぽく笑う。僕は肩をすくめる。
 
やっぱり、と彼女は言った。流れ星を見ると、あたしは哀しい気持ちになる、と。
 
この街からは、流れ星はおろか、星さえも見れない。でも、世界中の人が、同じ流れ星を見てると考えると、なんだか不思議な気持ちになった。
 
その中には、彼女のように流れ星に祈りをこめている人もいるかもしれない。
 
さよなら、と彼女と別れたあと、僕はそんな祈りを捧げる人たちのことを思い浮かべていた。