韓国併合から何を学ぶか? ー【NHKスペシャル】伊藤博文とアン・ジュンクン

 
 
 別に合わせたつもりもないのだが、「やる夫が伊藤博文を暗殺したようです」という史劇をニュー速VIPというところで公開したあとの日曜、NHKスペシャル「プロジェクトJAPAN」で伊藤博文安重根の特集があった。
 
NHKスペシャル
 
 残念ながら、僕の「やる夫が伊藤博文を暗殺したようです」は多くの人に読まれていない。ショックで二日間寝込んだぐらいである。ぜひとも、NHKスペシャルに対して意見を述べる論客によって、厳しい評価をいただきたいものだが。
  
 今のやる夫シリーズのほとんどは、小説や新書の翻案にすぎないような内容なのだが、安重根に関していうと、関連書籍がまったく役に立たない現状である。今作のような「安重根論」があれば、教えてほしい。Wikipediaを熱心に編纂される人も、「やる夫が伊藤博文を暗殺したようです」を読めば、ちょっとは冷静になるのではないか、と思っている。
 
 と、自作が読まれないグチはここらへんにして。
 
 
 残念ながら、NHKスペシャルについては、番組を見なかったため、直接的な感想は言えない。だが、はてな関連で感想記事を拾ってみると、リアリスト「伊藤博文」と理想主義者「安重根」という対立構図で作られた構成だったらしい。
 
NHKスペシャルの感想エントリ】
 
伊藤博文の克服 - 過ぎ去ろうとしない過去
プロジェクトJAPANシリーズ 日本と朝鮮半島 第一回 - Arisanのノート
 
 僕は「やる夫が伊藤博文を暗殺したようです」では、伊藤博文を登場させなかった。安重根と、検察官・溝渕孝雄の会話中で描いたのみである。そこには、あえて伊藤が「併合慎重派」であったなどとは書かなかった。伊藤の立場からすれば「併合やむなし」という選択肢は常にあったはずである。暗殺がなくとも、漸進的に韓国併合は実現されていただろう。
 
 しかし、伊藤のような国際情勢を知る政治家はともかく、当時、外地におもむいた日本人の多くが、心の底で朝鮮統治を正当化できていなかったことは、テロリストであるはずの安重根に旅順刑務所関係者が敬意を表していたことからわかる。
 安重根の実像はゴロツキにすぎないが、日本人の親切な待遇により、彼は自尊心を保つことができた。それは、彼の書の達筆さが示している。
 しかし、彼は「義士として生涯をまっとうする」ために、溝渕の説得する「大韓帝国の将来像」には、耳をふさがざるをえなかった。ゆえに『東洋平和論』自体は、机上の空論にすぎない偏狭な内容である。
 朝鮮半島が自主独立できていれば、明治維新後の外交はまったく別の形になっていただろう。
 
 伊藤博文安重根を対立させるのは、双方の情報量からして、ちょっと公平ではないと思う。また、韓国併合の正当性については、当事国だけの問題にすぎず、統一見解がでないのは当たり前である。国際世論では、日本の韓国併合を非難する声など、ほとんど上らなかった。
 
 それよりも、僕はそんな日露戦争後に外地におもむいた日本人の「不安」こそが、取り上げるべきことだと考える。明治政府の裁判干渉に応じざるをえなかった、法院院長・平石氏人や溝渕孝雄の葛藤こそが、その後の日本の文明化、すなわち「民族の区別なく法治主義を徹底させる」という統治が失敗したことの萌芽が見られるのである。日本式「法治主義」と、中国式「人治主義」の対立こそが、戦前史において、もっとも語られるべきことではないだろうか。
 
 どうも、論点がズレているのではないか。安重根の実像を追求しようとしない過去の歴史学者の言いなりになっているだけではないか、と思う。
 
 ということで、これを作ったスタッフには、ぜひとも「やる夫が伊藤博文を暗殺したようです」を読んでもらいたいものである。
 
 まあ、TVコンテンツ創作が、必ずしも質の高いものが作成できるわけではないことはわかっているが、百年近くたった今でも、中途半端な「安重根論」を撒き散らすのはどうかと思う。韓国ならともかく、日本の番組がそんなことして、どうするの、と。
 
 韓国内でも賛否両論だった安重根を国策として英雄視した朴正煕が、この番組を見ていたらどう思うことやら。
 彼のことだから「やっぱり日本人だな」と鼻で笑うんだろうな。