Midiアニメーション ―偉大なる先人とその追随者
今ではインターネットの音源の主流はmp3だが、以前はmidiファイルが主流だった。数メガバイトのmp3ファイルのダウンロードに数分かかるナローバンドの時代だったからだ。
midiは「楽譜を記した」ファイルに過ぎない。それをパソコン内蔵の音源に読み取らせて音を鳴らすのだから、配布サイズは少なくてすむ。だから、midiでは「人間の声」を入れることはできない。
midiファイルの欠点は、それぞれの人のパソコン音源によって、鳴る音が異なることだ。環境によっては、音楽ですらなくなるケースもあった。DTM(DeskTopMusic)制作者にとっては、自分の意図する音すらもインターネットで伝えるのが困難な、不遇の時代が続いたのだ。
しかし、時代は進み、高速回線によりmp3配信は可能となった。そして、サイズが小さいことだけが持ち味であるmidiファイルの存在意義は無きに等しくなった。
そう思っていた僕に、midiの新たな可能性を知らしめてくれたのが「midiアニメーション」である。
08/02/11 03:05 投稿 【MIDIアニメ】マリオワールド1-3【ステージ再現】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】マリオワールド1-3【ステージ再現】
これはMusic Animation Machine MIDI Player(フリーソフト)を使って、視覚的にmidiファイルの再生を楽しめる動画である。このソフトを使うと、楽譜に色をつけることができるのだ。
この動画では、マリオにふさわしいキャラのイラストが登場するが、それも「楽譜」なのである。音が鳴ることを前提に、イラストが配置されているのである。不協和音どころか、対位となるべく考えられているのだ。そこには数学的美しさがある。
すっかり感動してしまった僕だが、ニコニコ動画のコメントも見ると「初代の方がすごい」「五代目の方が好きだな」などと、ネガティブなものが多く、面食らった。もちろん、これらはニコニコ動画にはよくあることで、特に「歌ってみた」カテゴリーでは、ファンとアンチの不毛な言い争いが続けられている。
なるほど「midiアニメ」にも「歌ってみた」カテゴリーと同じく歴史があるのかと調べてみると、そこには伝説と言えるべき、一人の偉人がそびえたっていたのである。
ニコニコ動画で「midiアニメ」を認知させるきっかけとなったのが、下の動画。
07/10/31 15:41 投稿 チーターマン的MIDI |
Youtube ―チーターマン的MIDI
「チーターマン」というのは、バグが多すぎて一般発売すらされなかった伝説のクソゲーである。
(下記動画参照)
Youtube ―伝説のクソゲー チーターマン2
あまりにもひどいゲーム性だが、BGMは良かった。そのギャップが受けて、恐るべき勢いでニコニコ動画内で数多くのアレンジバージョンが生まれた。有名なものを紹介しておこう。
Youtube ―チーターマン2 メインテーマ
Youtube ―チーターマン メタル風
Youtube ―チーターマンのテーマ (ACID MIX)
Youtube ―チーターマン2を耳コピしてみた.(オケ風アレンジ)
Youtube ―もってけ!チーターマン
Youtube ―チーターマン2をラップ調で歌ってみた
Youtube ―チーターガール
ニコニコ動画コミュニティの層の厚さを知らされる優れたアレンジ群である。
さて、話をmidiアニメに戻そう。midiアニメ版チーターマンは、ただアレンジするだけではなく、視覚的に物語性を持たせたことが評価されたのだ。
このように、文字に音を鳴らすという発想
ゲームでおなじみの「?ブロック」や「ミミズ」を配置しつつ、それらも効果音としてきちんと音を鳴らしている
最後にはボスが待ち構えていたりと、楽譜なのにストーリーがある
わかりやすさと面白さ。この動画はニコニコ動画の視聴者をとらえた。そして、ここから「初代Midiアニメ職人」と称される彼は、一ヶ月あまりで前人未踏の作品群を次々と公開していくのである。
これ以上は、余計な言葉は不要だろう。わずかな期間で熱狂的ファンを生み出した、一つのサブカルチャーの誕生を、どうぞごらんになっていただきたい。
(ニコニコ動画のアップロードした時間も参照していただきたい)
07/11/02 17:18 投稿 【MIDIアニメ】超濃縮マリオメドレー【第2弾】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】超濃縮マリオメドレー【第2弾】
07/11/05 19:59 投稿 【MIDIアニメ】星のカービィメドレー【第3弾】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】星のカービィメドレー【第3弾】
07/11/09 23:24 投稿 【MIDIアニメ】おもいではおっくせんまん【第4弾】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】おもいではおっくせんまん【第4弾】
07/11/11 18:35 投稿 【MIDIアニメ】劣化FF4メドレー【第5弾】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】劣化FF4メドレー【第5弾】
07/11/16 18:00 投稿 【MIDIアニメ】レトロゲームメドレー【第6弾】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】レトロゲームメドレー【第6弾】
07/11/26 19:47 投稿 【MIDIアニメ】クロノトリガーメドレー【最終回】 |
Youtube ―【MIDIアニメ】クロノトリガーメドレー【最終回】
こうして、初代midiアニメ職人が、わずか一ヶ月で去ってから、新たなmidiアニメ職人が次々と生まれた。しかし、初代の持つアレンジ能力と物語性に達するまでには至らず、彼らのほとんどは「初代に比べると…」という批判的なコメントを受けることになる。それほどまでに、初代の功績は偉大であり、その存在は高くそびえたっている。
しかし、それでも彼らは忘れない。「midiアニメ」を始めて見たときの驚きと興奮と、その可能性を。自分の好きな曲でも、こんなmidiアニメを作りたい! そう思い、今日もまた誰かがMusic Animation Machine MIDI Playerを手にするのだ。
初代がmidiアニメ第一回を公開したのは去年の10/31。まだ四ヶ月もたっていないのに、ニコニコ動画には「midiアニメ」という一つのコミュニティが結成されている。やはり、文化が根付くためには、優れた先人が必要なんだろう。
ぜひとも、今後は、初代職人のファンでも「これは認めざるをえない」と嘆息するような新たな作品がどんどん出てきてほしいと思う。
*余談だが「チーターマン2」(正確には、チーターメン2)は、僕がニコニコ動画を見て最初のムーブメントであったために思い入れが深い。特にタイツォン氏のチーターマン2をラップ調で歌ってみたを聞いたときは衝撃的で「やはり、プロはレベルが違う」と誤解してしまった。僕はタイツォン氏のことを、音楽活動を一時休止していたプロミュージシャンと信じて疑わなかったのである(ちなみに、実際のタイツォン氏は高校三年生)。こういうことはいつまでも忘れずにいたいなあ、と思う今日この頃。