「僕は友達が少ない」六巻感想:夜空×、幸村×、星奈○、理科◎

 

僕は友達が少ない 6 (MF文庫 J)

僕は友達が少ない 6 (MF文庫 J)

 
 TVアニメ化が決定したラノベシリーズ、「はがない」こと『僕は友達が少ない』の最新刊は、ドラマCDつきの特装版と通常版が発売された。
 その通常版では、ご丁寧にも、ドラマCDで吹き込まれたシナリオが、活字化されている。
 
 なぜ、こんなことをしているのかというと、通常版を買った人を悔しがらせるためである。
 まあ、つまり、ドラマCDの内容はエロいということだ。
 通常版を買った連中が「まさか、ドラマCDではあの声優にこんなセリフを言わせてたのか!」と驚愕し、特装版を買わなかった自分の愚かさを嘆かせるために、わざわざドラマCDの内容を小説化して収録しているのである。たいしたものだ。
 
 さて、六巻になると、登場人物の「友達が少ない」という事実は、ただのネタとなっていて、高校時代の孤独さを思い出させるような生々しさは、ほとんど見られない。
 はっきりいってしまえば、「はがない」は「ToLOVEる」と同じ、エロコメにすぎないのだ。
 孤独に苦しむ中高生が、救いを求めてこれを読んだところで、二次元彼女との毎日を妄想することしか救いはない。
 
 ただ、読みやすさは格別で、速読が苦手な僕でも一時間足らずで読める。
 イラストにも定評があって、よく「『はがない』は絵師のおかげで売れている」というが、それは絵を描きやすい場面をきちんと作者が設定しているためでもあって、売れている理由は、作家と絵師が半々ぐらいだと思う。
 
 それにしても、六巻では、メインヒロインであるはずの三日月夜空が、存在感を見事なまでに喪失している。
 だいたい表紙からしてひどい。六巻の表紙を飾るのは、特装版は柏崎星奈で、通常版が三日月夜空なのだが、前述したとおり、特装版=勝ち組、通常版=負け組である。だから、夜空は負け組の象徴と化しているのだ。
 
 中身でも、夜空の出番はほとんどない。ハエたたきで部員を叩くしか能がなく、マイナスの行動ばかりとって、読者の印象に残る活躍はしていない。
 夜空は「隣人部」部長であって、涼宮ハルヒぐらいに偉いのだが、この六巻では、夜空なしでも「隣人部」は成り立っていると思わせる描写ばかりだ。
 六巻を読むかぎり、夜空は楠幸村の次にウザい。女性であることが五巻で知れ渡った幸村は、男あつかいされなくなったことで、一緒の部屋で泊まったり、一緒に着替えたり、一緒に風呂に入ったりというイベントがなくなり、存在感が低下した。そんな幸村と同じ立場に、夜空は成り下がっている。
 
 ファンの間で一番人気が高いのは、そんな夜空にいつもいじめられている、柏崎星奈である。六巻でも、星奈人気にこたえるかのように、ギャルゲにおける個別イベントのような展開が与えられている。
  
 しかし、六巻の主体者が誰かといえば、これはもう志熊理科としか言いようがない。
 
 変態科学者女子高生というのは、ありがちなキャラ設定だが、志熊理科は大人相手に発明品を提供しているという背景からか、ヒロインの中でもっとも「身をわきまえている」性格をしている。
 作者からすれば、志熊理科というキャラは使いやすいのだろう。学園祭の予行演習として演じた「メイド喫茶」でも、最初にメイドになって、男主人公を手痛く奉仕したのは理科であるし、エロ声を引き出すためだけに作られたドラマCDのシナリオでも、そのきっかけ作りをするのは理科である。
 かといって、ただの便利キャラではなく、彼女なりに男主人公に惚れている描写があるのがよい。
 六巻で作者が読者に「ブヒィィィ」と言わせたい萌えポイントは、おそらく、永夜(名古屋)市デパートでの、星奈と男主人公の喫茶店だろうが、僕が一番面白かったのは、その前日の志熊理科メールである。この理科メールに比べると、夜空メールが何とも魅力に欠けていることか。
 
 ということで、六巻を読んだいま、僕がもっとも好きなキャラは誰かといえば、志熊理科一択なのである。作者も、ファンの視線が熱すぎる星奈よりも、もはや失敗ヒロインである夜空よりも、理科を中心に描くことが楽なんじゃないかと思う。
 
 僕は「自分の好きなタイプ」よりも「物語に貢献したキャラ」に思い入れをいだいてしまう。彼女たちがどれだけ物語を魅力的にしたかを、もっとも重視して読んでしまうのだ。
 でも、実際の恋愛もそのようなもので、それぞれの集団の中で、どのような役回りをしているかで、我々は好意を持ったりする。モテ組と非モテ組とグループ分けが存在するのも、そんな理由である(だから、イジメなんてものがあるのだ)
 面食いと自称する人も、「美人と認められている」から好きなのであって、「俺しかわからない美人」を好きになっても、それは面食いとはならない。美人というのは絶対的なものではなく、相対的なものであるからだ。美人が時代とともに変遷するのは、そういう事情である。
 それぞれの恋愛には「ストーリー」が欠かせない。それが、どれだけ本人によって歪められた主観的なものであってもだ。
 
 さて、「はがない」は、隣人部を描けば描くほど、打たれ弱くてすぐ逃げる星奈よりも、カッコつけようとするあまり部長としての存在感を失った夜空よりも、みずからの欲望に忠実だが最低限の常識は兼ね備えている志熊理科が目立ってくるという問題が、この六巻で明らかになった。
(受身な幸村、邪気眼妹の小鳩、幼女マリアでは主体者とはなりえない)
 このジレンマを、今後、作者はどう料理するのだろうか。
 
 少なくとも、六巻で男主人公がもっとも心を許しているのは、夜空ではなくて、理科である。
 それが「理科なら何でも許される」という男主人公の甘い考えによるものであったとしても、このアドバンテージはかなり大きい。
 かつて、「ユニバース!」と叫んで倒れるだけの変態少女が、今ではそのタフさゆえに、隣人部の主体者となりつつある。
 「はがない」を理科の成長物語として読めば、なかなか感動できること請け合いである。
 
 
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