口蹄疫まとめ ー 不安と不信感を招いた現政権とマスコミの対応を批判せよ

 
 
 長かったので、記事を分割。
 このエントリは、以下の記事をまとめたものです。
 
農水省官僚のtwitterから、口蹄疫感染対策の事実関係を紹介する
http://d.hatena.ne.jp/esu-kei/20100519/p1
 
 
(1) 日本産の牛肉や豚肉は輸出停止状態なのか?
 
 口蹄疫感染が発覚した4月20日より、日本は牛肉、豚肉、皮の輸出証明書の発行を停止している。
 なお、香港とマカオには牛肉輸出を再開している。
 ほとんどの国では、口蹄疫感染が発覚次第、その国からの畜肉を輸入することはない。
 
(2) 人体に影響がないのに、なぜ殺処分するのか?
 
 屠殺場に運び、食肉として加工するまでに、ウィルスが蔓延するため。
 口蹄疫は、感染力が強く、農場全体に広がるので、農場単位で処分するしかない。
 
(3) 感染経路はどこから? 韓国からの牛肉輸入再開が原因では?
 
 中国からの情報提供がない現状では、韓国や香港から来たとは言いがたい。
 なお、豚コレラの清浄性が確認された後、韓国の一部地域から輸入を認めたものの、口蹄疫が発覚した段階で輸入停止にしている。
 まだ原因は不明。
 「犯人探し」は専門家にゆだねるべきだ。地元民の悲しみを怒りに変えないためにも。
 
(4) 報道規制はあったのか?
 
 農水省のホームページでは、即時的に情報を公開している。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/
 地元メディアの過剰な報道と、中央メディアの無関心が、「報道規制」の疑惑を生んだのではないか。
 なお、農水省がホームページで10年前の口蹄疫対策の情報を隠蔽したというのは事実無根である。
 
(5) 消毒薬の横流しはあったのか?
 
 国が消毒薬を保有するという慣例はない。
 宮崎県を含めた九州4県で「全額国費による」消毒を実施している。
 消毒薬の横流しについては、デマだと思われる。
 
(6) 感染拡大は宮崎県の対応に問題があったのか?
 
 4月20日の発覚以前の初期症状では、口蹄疫と判断するのは無理。
 初動段階での宮崎県や獣医師の対応を批判するのは論外。
 また、法律では、家畜防疫は県の対策であることを前提にしているが、今回の感染拡大は、県だけでは対処できない。
 農水省は県と協議して、その支援策を打ち出してきている。
 
(7) 政府の対応は適切であったのか?
 
 農水省官僚による実務的な対策は、適切であったと思われる。
 しかし、その説明責任を果たさなかった閣僚や政務官の対応は、適切であったとは言いがたい。
 与野党で協力することなく、政局を意識するだけの具体性に欠けた弁明に、宮崎県民のみならず、人々は不信感を抱いている。
 
 
 政治とはパフォーマンスである。
 実務にいそしむ農水省官僚にとって、そのパフォーマンスは好ましいものではないだろう。
 
 それは、農水省官僚が、きわめて正しい知識を得ることができるからである。
 しかし、ほとんどの人々は、与えられた情報で満足することしかできない。
 責任逃れのために、情報を隠しているのではないか、と不安に陥るのが人間心理なのだ。
 
 だから、国を代表する者が現地を視察するだけでも、地元民の不安は解消されるものである。
 政治家に求められるのは、そんな「不安」や「不信感」を取りのぞくことである。
 
【追記】
 5/22の赤松農水相の会見は、みずからの保身のために現場を混乱させるだけのパフォーマンスにすぎなかった。
 それは、政治家に求められる資質からは大きく外れた行為である。

 
 農務省官僚の処置が適切であっても、「国が何もしていない」という声がささやかれるのは、それを人々に説明するはずの閣僚が、その責任を怠っているからだ。
 与野党で協力しなければならない状況なのに、自民党対策本部の申し入れを「選挙目的のパフォーマンス」と見なす、現政府の認識の甘さである。
 
 宮崎県の不断の努力により、二地域への封じ込めには成功した。
 だが、政府の対策本部は、5月17日になってから本格始動したばかりである。
 そして、鳩山総理などの閣僚から、その不安と不信感をとりのぞく声明は出て来ない。
 
 いっぽう、この口蹄疫感染について、報道を自粛していた中央マスコミにも問題がある。
 宮崎県民の不安が増大していたゴールデンウィーク中に、なぜ、政府に「口蹄疫感染」への説明を追及しなかったのだろうか
 もし、「適切な処置」がされていたのならば、閣僚はその対策を口に出していたはずである。
 それを求めるのが、マスコミの努めではないだろうか。
 
 「風評被害」を恐れていたとはいうが、10年前とは比べ物にならない規模である現状においては、人々への認知を徹底すべく、正確な報道を心がけるべきではなかったか。
 
 
 結局、twitterなどのインターネット上の情報でしか、我々はこの問題を正しく知ることができない。
 それは、おそらく、政府とマスコミが「口蹄疫」に無知だったことにある
 正しく説明できていない、正しく報道されていない、ということは、それをするだけの技量がないということだ。
 
 
 「口蹄疫」感染の被害額は、十年前とは比較にならない規模となった。
 そのために、これは畜産業者だけではなく、国民すべての問題となっているのだ。
 
 政府とマスコミの認識の甘さは、危機管理能力の絶対的不足を意味する。
 この事実に、我々は危機感を抱いている。
 
 現政権とマスコミは、その「無知」を恥じるべきだ。
 そうでないかぎり、人々の信用を取り戻すことは絶対にできないだろう。
 

 
【関連エントリ】
僕なりにまとめた口蹄疫感染問題 - esu-kei_text 
 
【参考リンク】
 
口蹄疫対策に関する霞ヶ関の「中の人」のつぶやきまとめ
http://togetter.com/li/19383