ザ・フー(THE WHO)のオススメ曲10選(動画あり)<後編>

 
 
前編はこちら
 
 ところで、フーのギタリスト、ピート・タウンゼントについては「児童ポルノ保持者として逮捕された」と大々的に報道されたために、未だに「ロリコンギタリスト」と呼ぶ人がいるが、それはザ・フーの音楽観の深さを知らない人たちだろう。
 詳細は下のページにくわしく書いてある。時系列順にまとめられているので参考になるかと。
 
whosgeneration.info
 
 


(5)Baba O'Riley

 
 

http://www.youtube.com/watch?v=hKUBTX9kKEo
Baba O'Riley - The Who
 
 1971年に発表されたザ・フーの最高傑作「Who's Next」の冒頭に収録されたのが、この「ババ・オライリー
 ピートの尊敬する二人の人物からつけられたそのタイトルの不可思議さもさることながら、自動演奏のモーグシンセサイザーから発せられるイントロは、まるでSF映画のオープニングのようである。
 そして、スリリングなパワーコードがはじき出され、それに導かれるように、ロジャー・ダルトリーの堂々たるボーカルが始まる。
 もともとはインストナンバーだったものに「Teenage Wasteland」の歌詞があてはめられて作られたこの楽曲は、非常に特殊な曲編成であるのに関わらず、ザ・フーの代表曲として知られている。
 ロックンロールだけではなく、テクノ音楽にも、この曲は衝撃を与えた
 
 ヘソ出しルックでマイクを投げまくるボーカルのロジャーに注目が集まるかもしれないが、この動画で見るべきは、演奏で見せ場がないくせに、せいいっぱい目立っている、作詞作曲者であるギタリスト、ピート・タウンゼントのパフォーマンスだろう。
 
 最初はギターの音が必要ないので、タンバリンを急角度で叩いている。僕が知るかぎり、もっともカッコいいタンバリンの叩き方である。「けいおん!」の平沢唯にはぜひとも真似てほしいものだ。
 
 その後、タンバリンを投げ捨てたあとは、これでもかとばかり代名詞である「風車弾き」を披露する。そう、第二期「けいおん!」一話の平沢唯のぐるぐるギターの元ネタである。
 実のところは、ただのコード弾きにすぎないわけで、テクニックがなくても真似できるのが「風車弾き」の良いところである。
 そして、一番おいしいところのボーカルを担当したあとは、特に誰も望んでいない様々な向きで風車弾きを見せてくれる。
 後奏はロジャーのハーモニカがひたすら続くので、ついにはギターから手を離して踊ったりする
 ということで、特にギターを弾かなくても目立つパフォーマンスを知るうえで、この映像は格好の教材となるだろう。
 
 一方、ベースのジョン・エントウィッスルは、とてもベースとは思えない低音を出している。ピートのギターの邪魔がないために、ザ・フーの特異なベースの音がわかると思う。
 
 この曲に関しては、ドラムのキースは珍しく地味だ。通常のドラマーと同じ手数で、バンドサウンドに貢献している。
 
 
 この曲は非常に多くのカバーがあるが、代表的なのが、ニコニコ動画の広告でおなじみの「Blue Man Group」のもの。
 

http://www.youtube.com/watch?v=YN-MUx6dg6w
・Blue Man Group - Baba O'Riley
 
 音楽を魅せるエンターテイメントが何たるかを教えてくれる。
 モーグシンセサイザーのイントロをパーカッションにし、さらには、ピアノを叩くことで音を出す、という視覚的に音を表現する工夫をしている。
 米国音楽番組の手法も注目すべきだろう。こういうのを見ると、日本の音楽番組は、「音楽を魅せる」努力に欠けていると言わざるをえない
 
 ボーカル及びヴァイオリンを担当しているのが、トレイシー・ボーナムである。
 この番組出演により、ブルー・マン・グループは一躍人気のグループとなった。
 それとともに、ザ・フーのオリジナルが再評価されて、現在に至っている。
(なお、今のブルー・マン・グループにトレイシーは参加していない)
 
 ところで、この曲の歌詞を知る人は、女性に歌わせていることに抵抗感があるだろう。
 
 何度もくりかえされる「Teenage Westeland」とは「十代の荒地」という意味だ。
 この歌では「十代」を懐かしんだりするのはやめて、振り返らずに、前進しよう、と歌う。
 なぜならば、俺たちの十代は荒野のように惨めなものだからだ、と。
 
 このメッセージは、男性ならば共感を得るだろうが、女性ならば、どうであろうか。
 女性にとって、十代とは、自分がその価値を気づかないほど、二十代になってやっとわかるほど、美しく実りのある季節である。
 女性ボーカルが「十代は荒野のように惨めだ」というのは説得力に欠けると思う。
 ただ、それを含めても、トレイシーのボーカルとヴァイオリンはすばらしいけれど。
 
 
 さて、この曲の「荒地の十代」というメッセージは、90年代以降のバンドにも受け入れられた。パール・ジャムのカバーがこちら。
 

http://www.youtube.com/watch?v=49C9S2DU-MI
Perl Jam - Baba O'Riley
 
 パール・ジャムは、シンセサイザーをギターで表現するという離れ業をやっている。原曲にはないパワフルさがある、すばらしいカバーの一つだ。
 
 「ロックンロールは十代向け」の音楽と思われている人に、この歌詞は突き刺さるはずだ。
 むしろ、今のロックンロールなんて、惨めな十代を送った人々に向けられていると僕は思うのだが。
 
 


(6)Behind Blue Eyes

 

http://www.youtube.com/watch?v=qskk5rsoiog
Behind Blue Eyes - The Who
 
 ここまで、ロックナンバーばかり紹介したが、ザ・フーの名バラードといえば、この「ビハインド・ブルー・アイズ」だろう。
 これも、先の「ババ・オライリー」と同じく、最高傑作と呼ばれるアルバム「Who's Next」に収録
 
 これは、キースが死後の1979年のときのライブ。ボーカルのロジャーの髪型や格好がおとなしいが、最後まで聞けば、この曲がただのバラードではないことを思い知らされるだろう。
 
 そして、キース・ムーンが亡きあとも、音楽を届けようとした、ザ・フーのメンバーの意志を感じてもらいたい。
 
 


(7)I Can't Explain

 

http://www.youtube.com/watch?v=j157erDp3oM
I can't Explain - The Who
 
 さて、ここでザ・フーのデビュー曲の紹介。
 発表は1964年だが、これは、1970年のワイト島フェスティバルのライブ映像。
 
 キンクスの「You Got Really Got Me」を思わせるモッズ・サウンズかと思わせて、ブリッジ部分でメロディアスなラインを聴かせてくれる。これぞ、フーの楽曲の奥深さである。
 
 が、それよりなにより、この映像では、プレイはうまいが、パフォーマンスが地味なベーシストであったはずの、ジョンの衣装に注目が集まるだろう。
 このガイコツスーツを見て、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーを思い出した人は多いはずだ。
 世界でもっとも多くのベーシストに影響を与えたミュージシャンといえば、間違いなく、レッチリのフリーだが、そのガイコツスーツの元ネタは、ザ・フーにあったのだ。
 
 いやいや、フリーのファンクスラップベースに比べれば、ザ・フーなんてたいしたことないよ、と思われる人は、このベースソロを聴いてもらいたい。
 

 
 曲は「四重人格」というアルバムに収録された「5:15」だが、そんな曲のことを完全に忘れさせる三分近くのベースソロである。
 ディストーションをきかせたジョン・エントウィッスルのベース音は、「ベース」というより「ベース・ギター」と表現したほうがいいだろう。
 ザ・フーは、リズム・ギターとリード・ベースと呼ばれるぐらい特殊なバンドだが、それを成立させたのが、このジョンの「サンダー・フィンガー」ベースプレイにあるのだ。
 
 なお、このときのドラムはリンゴ・スターの息子ザック・スターキーが叩いている。
 親の七光りなどではなく、ザックはキース・ムーンの弟子として育ち、オアシスのドラマーの地位を蹴って、フーのドラムについているほどの実力の持ち主である。
 そんなザックの親譲りの正確かつノリのいいドラムだからこそ、ジョンも自由闊達にベースソロが弾けるのだ。
 
 キース・ムーンが在籍していた時代のザ・フーの素晴らしさは言うまでもないが、その後のザ・フーにだって魅力はあるのだ。
 
 


(8)Pinball Wizard

 

http://www.youtube.com/watch?v=-ZCwiNJ4wgo
Elton John - Pinball Wizard
 
 さて、ここでエルトン・ジョンが歌うピンボールの魔術師」である。彼自身のピアノとボーカルだが、その他のバックをつとめているのは、ザ・フーのメンバーである。
 それでは、ボーカルのロジャーはどこにいるのかというと、主人公のトミー役として登場している。
 
 実はこれ、ロックオペラ「トミー」の一場面である。「ペット・サウンズ」や「サージェント・ペパーズ」などのコンセプトアルバムに触発されて、ザ・フーはアルバム一枚でストーリーを作ってしまったのだ。
 その第一弾が、この「トミー」である。1969年にアルバム発表ののち、映画化された。
 

ロック・オペラ 「トミー」 [DVD]

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 この「トミー」は三重苦の少年トミーが、ピンボールの魔術師となったあとで、やがて覚醒する、という文字にすれば60年代らしい意味不明なストーリーだが、その音楽性が高く評価されたからこそ、エルトン・ジョンエリック・クラプトンティナ・ターナージャック・ニコルソンなど豪華メンバーが参加した、映画「トミー」が作られたのだ。
 
 なお、この曲はどのシーンを描いたのかというと、前チャンピオンであるエルトン・ジョンが、目が聞こえない・耳も聞こえない・口はきけない三重苦のトミーに敗れ去る光景が描かれている。
 意味はわからなくとも、映像の面白さは楽しめるはずだ。
 
 なお、この「トミー」の雰囲気をもっと知りたい方は、以下の二つの動画をご覧になればいいだろう。
 
 

http://www.youtube.com/watch?v=b_z9V6HlAeI
Tina Turner - Acid Queen
 
 ティナ・ターナーの淫靡きわまりない演技力に圧倒される「アシッド・クイーン」。
 なかなか過激な映像もあるので、心臓の弱い方は閲覧注意。
 
 

http://www.youtube.com/watch?v=E8zeL6uSEl8
Roger Daltrey - I am Free
 
 こちらは、本職のロジャー・ダルトリーによる「アイム・フリー」。
 どんな理由かはイマイチわからないが、とにかく、三重苦から開放され、感覚を取り戻した主人公トミーの喜びをあらわすシーンとして使われている。
 とにかく、映像のバカバカしさに注目すべし。これほど「俺は自由だ!」を表現した映像はないだろう。
 
 

(9)5:15

 

http://www.youtube.com/watch?v=9Qv6QTrWXN4
The Who - 5:15
 
 こちらは、ロックオペラ第二弾四重人格から。先にベースソロで紹介した楽曲のフルバージョンである。
 この「四重人格」も映画化された。なぜか、邦題では「さらば青春の光」と、もっともらしいタイトルになっている。
 

 
 内容は多重人格者を題材にしており、それぞれの性格をザ・フーの四人のキャラクターに託している、という内容である。
 第一弾「トミー」も、三重苦になった理由として、叔父の性的虐待を受けたトラウマがあげられていたように、60年代後期、70年代前期でありながら、ソングライターのピートは、心理学を積極的に取り入れた曲づくりをしていたのだ。
 
 さて、この曲を聞けばわかると思うが、楽曲はもはや四人では演奏不可能であり、音ではブラスやピアノも加わっている。
 コンセプトアルバムを追求するソングライターのピート・タウンゼントの作品は、もちろんのことながら素晴らしいクオリティだが、一方で、ロック史上随一といっていいドラムとベースである、キース・ムーンジョン・エントウィッスルの魅力が損なわれていると感じた人もいるだろう。
 
 しかし、それでも、ステージでは「トミー」および「四重人格」は、ライブによって全曲披露されることが多く、コンセプトとしてのロックンロールのストーリーをファンに魅せてくれた。
 キースもジョンもレッド・ツェッペリンのメンバーに請われたこともあったが、ザ・フーのメンバーとして活動することを続けたのだ。
 
 

(10)Won't get fooled again

 

http://www.youtube.com/watch?v=Rp6-wG5LLqE
Won't Get Fooled Again - The Who
 
 
 最後はやはり、この曲だろう。ザ・フーの最高傑作「Who's Next」のラストを飾る8分以上の大作「Won't Get Fooled Again」である。
 この曲でも、モーグシンセサイザーが積極的に使われているが、それ以上に、うねりまくった「サンダー・フィンガー」ジョンのベース手数が多いのに一発一発が重いキースのドラムなど、名演にふさわしい見ごたえのある内容だ。
 
 ハイライトは7分過ぎにやってくる。
 シンセサイザーの自動演奏が高まったあと、堰を切ったかのように叩きまくるキースのドラミング。そして、ロジャーの張り裂けんばかりのシャウト。
 これを見ずにロックを語るな、と言いたくなる素晴らしい映像である。
 
 そして、最後はヘッドフォンを投げ捨て、キースのスティックが乱れ飛ぶ。モーグシンセサイザーから開放されたキースのありったけのドラミングはいつ見ても素晴らしい。
 
 歌詞は「もうダマされないぞ!」という意味。革命が起こったあとの新しいリーダーに向かって、そう吐き捨てる、というストーリーになっている。
 邦題は「無法の世界」という。歌詞の内容とはまったく関係ないが、たしかに「北斗の拳」で流れてもおかしくない楽曲だが、SFとしても十分に使えるサウンドであると思う。
 このような楽曲を1971年に発表にしたのだから、やはり、ザ・フーは偉大なのだ。
 
 もともと、「フーズ・ネクスト」というアルバムは、「ライフハウス」というコンセプトアルバムになる予定だった。「トミー」のあと、「四重人格」の前の時期である。
 しかし、ピートは「ライフハウス」プロジェクトを断念し、アルバムとして「フーズ・ネクスト」を作り上げた。
 
 この「ライフハウス」は最近になって、ピートのソロ・プロジェクトとして陽の目を見ることになったが、それを聴いたかぎりでは「フーズ・ネクスト」として発表したことが英断だったと思う。
 それぞれの楽曲がコンセプトに縛られなかったからこそ、「フーズ・ネクスト」は名盤となりえることができたのだ。
 
 さて、キース・ムーン亡き後も、この「Won't get fooled again」は演奏されている。
 ドラムはリンゴ・スターの息子ザック・スターキーで、さらには、ギターに元オアシスのギャラガー兄ことノエルが加わっている。
 

http://www.youtube.com/watch?v=qUlUOvVSm5M
Noel Gallagher & The Who - Won't Get Fooled Again
 
 老いたりとはいえ、ステージ・パフォーマンスは一流であるザ・フーの演奏を楽しんでいただきたい。
 
 


(おまけ) Barbara Ann

 
 

http://www.youtube.com/watch?v=4d6mj7PG9qA
Barbara Ann - The Who
 
 最後に、キース・ムーンがボーカルをつとめる「パープリン」をおまけとして紹介。
 
 下手なくせに歌いたがるキースの扱いについては、ピートの悩みの種だった。
 何しろ、キースはあの手この手でうまく忍びこんで、なんとかボーカル録音に紛れ込もうとするのだ。
 そんなキースの冗談のようなエピソードは、これまでの動画を見た人ならば、わかってもらえるだろう。
 
 ザ・フーだからこそ、キース・ムーンだからこそ許されるクオリティが、このパフォーマンスにはある。
 どれだけピートがキースに歌わせたくなかったか。その理由のすべてがこの映像にある。
 
 口直しならぬ、耳直しをしたい方は、ビーチ・ボーイズのバージョンをどうぞ。
 

http://www.youtube.com/watch?v=2wbMqRO6lnc
Barbara Ann - The Beach Boys
 
 
 ザ・フーというバンドは、その多くがピート・タウンゼントの作詞作曲であるのにも関わらず、四人の強烈な個性がぶつかりあった、稀有なバンドである。
 それは映像だけでなく、音楽だけでも楽しめる。興味を持った方は、とりあえず、次の二つのアルバムを聴いてもらいたい。
 

Who's Next

Who's Next

 
Live at Leeds -Deluxe Edition

Live at Leeds -Deluxe Edition

 
 
 映像作品としては、最初に紹介した「The Kids Are Alright」をオススメする。実はここで紹介した映像は、ほとんどそれに収録されたものだったりするんだけど。
 
Kids Are Alright / [Blu-ray] [Import]

Kids Are Alright / [Blu-ray] [Import]


 
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