ゲバラ映画感想

 
第二部 「39歳別れの手紙」
 
 そもそも、Part1&2に分けているのは日本だけであり、Part1と続けて見てこそ、わかる作品。
 といっても、こちらは「ゲバラ日記」を題材としているので、きわめてエピソードは散発的である。
 
 ボリビアの自然を舞台に繰り広げられるゲリラ戦の描写は、BGMをひかえ、ほとんど演出なしで映し出される。
 正直いって、原作を読まないと厳しい、というより、ほとんど理解できないと思うが、むしろ、兵士の一人になって、このゲリラ戦に参加した気持ちになれるかも。
 ゲバラたちキューバ人、賛同したボリビア人、そんなゲリラに襲われるボリビア軍兵士、ゲリラ作戦のおかげでボリビア軍ににらまれる民衆。さまざまな人物に感情移入できることで、フィクション映画にはない、戦争の生々しさを描くことに成功。
 
 だいたい、銃撃戦なんて、初発から30秒でカタがつく。そんな戦争に忠実であるため、フィクションのようなカタルシスはない。
 
 トゥマやニゲル、フェルナンドやホアキン、そしてターニアなど、原作を読んだ人ならば、おなじみの人物が、日記に忠実に出てくる。
 ゲバラたちの写真を見た人は、それが再現できていることに驚くだろう。
 もちろん、彼らはゲバラを含めて、ほとんど死ぬ。
 
 ゲバラの死のシーンは、これはスクリーンで見ろ、としか言いようがない。史実の流れを知らない人は「おいおい、こんなのでゲバラが」と思われるかもしれないが、そのとおりにゲバラは死ぬ。
 
 おそらく、このPart2を監督は描きたかったのだろう。しかし、見終えて「ゲバラ、カッコいい」と言えるような単純な代物ではない。
 基本的に僕は「25歳から35歳までが適任」といっていたゲリラ作戦初動期に、ゲバラが加わったのは失敗だったと考えている。ゲバラが頼りにしていた、ボリビア共産党との共闘、そして、ゲリラ作戦を行うことにより、労働者たちにストをうながそうと工作するものの失敗。米国の指導を受け、ゲバラ作戦の概要を理解したボリビア軍は、圧倒的な兵力で、ゲバラたちゲリラ隊を追いつめていく。
 
 こういう映画を見ると、フィクション作品を見るのがバカらしくなるね。エンターテイメントというよりドキュメント作品といったほうが適当かと。
 
Part1「28歳の革命」
 
 こちらは「キューバ革命編」だが、64年の国連総会での演説シーンも含まれている。
 そこでの「米国指導により、中南米諸国が経済援助を受け、農地改革を実施すれば、キューバ革命の意義がなくなるのでは?」という質問に、映画のゲバラは答えないんだけど、それはOASの演説で説明してるんだけどなあ。結局、アルゼンチンはデフォルトしたし。米国つながりで力を得たマフィアたちの抗争はたえないし。
 「共産主義」が何であるかを理解しようとせず、すべて「キューバ革命」を非難した国際世論には、やはり問題がある。キューバの「革命の輸出」により、確かに血は流れただろうが、米国の「戦争商売」に対抗できる数少ない手段であったのだから。
 
 さて、キューバ革命についてだが、上陸してからの3月から物語は始まる。ゲバラが付き添いの兵士と放浪しているときである。
 その後のソトゥス大尉との合流シーン。これは訳が難しい。ゲバラは「隊の統括」を任されたというが、当時のゲバラは大尉ではなかったので「隊長」というのはありえない。「教育係」もしくは「監査役」が適当であった。
 いずれにせよ、ゲバラに大尉を与えられていないということは、ゲバラを「隊長」にするつもりはなかったということで、映画の作品が史実にあてはまるとは思えない。
 
 あと、アルメイダの扱い、悪すぎ。
 
 しかし、ゲバラが隊で果たした役割についてはよく描かれている。新兵の訓練を任せられたり、裁判で厳しく臨んだり。
 文章を書くゲバラは「人懐っこい」描写をしているんだけど、他の人から見たゲバラは、きっと、この映画のような「厳格」そのものであったのだろう。「道徳の巨人」と呼ばれるゆえんである。
 
 今作のハイライトは「サンタクララの戦い」。映画を見ただけでは散発的にすぎず、思わず、資料を探したくなったのだが、決死隊の活躍などが描かれている。
 
 そもそも、戦争で「実態」を把握している者は誰もいない。突破口を開くべく、各方面で活躍していた兵士たちの様子が描かれている。あと、カミーロさん最高。
 
 かなり史実どおりなので、これまでのゲバラの「ゲリラ戦の天才」「カストロのブレーン」というイメージは崩されるだろう。しかし、そんなイメージは、ゲバラ自身「革命戦争回顧録」では書いておらず、ゲバラの著作をろくに読んでいない奴の誤解である。
 
 しかし、このPart1、面白かったけど、Part2の徹底とした散文世界に比べると、やや劣るなあ。むしろ、Part1の熱っぽさがないことに、Part2は注目すべきかも。
 
 
 と、かなり、オタクな感想になっております。
 たぶん、ゲバラをよく知らない人が、この映画を見ても、何のことだかわからなんじゃないか。
 でも、Part2における戦争描写は、フィクション作品に毒された人には見てもらいたい。
 だから、やはり、Part1とPart2は分けるべきじゃなかったんだよ。何やってんの、博報堂