「セックスボランティア」―理想論に打ち砕かれた救いのない物語 (評価:C)

セックスボランティア (新潮文庫)

セックスボランティア (新潮文庫)

おすすめ度:★★☆☆☆
 
性の解放が叫ばれて久しい。マスターベーションを抜きにして、コンテンツ産業を語ることはできない時代である。

「QOL」という言葉がある。Quality Of Lifeの略語で「生活の質」という意味である。人間には生きる権利がある、というとき、この「QOL」が使われることが多い。例えば、旅行や買い物などをする権利。そして、マスターベーションする権利とか、セックスする権利とか。

この本は「障害者の性」について、様々な実例が紹介されているノンフィクション作品である。マスターベーションできなくなった障害者、セックスできなくなった障害者、そんな人たちの性を介助している人々がいるという。著者は正義感に駆られて取材を重ねるが、どうやら「セックスボランティア」は理想論にすぎないことを知る。

オランダには「セックスボランティア」の組織があるらしい、と障害者たちは言う。しかし、その組織「SAR」はNPO(非営利組織)にすぎず、利用者はお金を払って、そのサービスを受ける。そのお金は、団体運営費とサービス提供者に回される。16人(女13人男3人)の提供者に、2000人の利用者がいる。利用者の9割は男性である。なお、オランダは売春が合法であり、市役所がセックス助成金を払っているような国である。刑務所には、受刑者がパートナーと会ってセックスできる個室も用意されている。QOLの考え方が我が国と違うのだ。

女性たちは言う。「女性はセックスの『ボランティア』という言葉だけで傷つくものです」「支配されたりするのはイヤです。助けを求めたときに初めて手をさしのべてほしい」

障害者を専門としたデリバリーヘルスは日本にもある。オーナーの月収は15万〜20万円である。それでも、情のために続けているという。女性障害者向けの出張ホストサービスもある。いずれにせよ、障害者を対象とした性産業は儲けにならないようだ。

この本の興味深いところは、それぞれの登場人物がワケアリであること。最初、69歳の障害者である男性を、ソープランドに連れていく介助者が登場する。もちろん、それは施設から命じられたものではなく、その介助者の好意によるものだ。彼は障害者のマスターベーションの手伝いをすることもあるという。著者は彼のそんな奉仕精神に感動する。ところが、彼がそんなことをするのもワケアリなのだ。本を読み進めていくと、登場人物の人間関係が、だんだんとつながっていくのを知ることができる。そして、最後には著者自身の性の告白もあったりする。わりきって読めば、ミステリー小説よりも面白い展開である。

この小説は「セックスボランティア」という地球上に存在しない理想論を実践しようとして失敗した人々のドキュメントである。彼らの主張は「健常者」と「障害者」ではなく、結局は「男性」と「女性」に帰結する。男性は気持ちよく射精がしたいし、女性はあたたかく抱きしめてほしい。それを声高に言うことが許されない障害者たちの満たされぬ思いが、本書の全編をおおっている。障害者問題よりも、「男らしさ」「女らしさ」ということについて考えさせられる本だった。